今日も出来立ての「餡」で。古伝餡 濱岡屋の「ほほえみ苺大福」は春にぴったりのいちごスイーツ。
創業134年(明治23年創業)の濱岡屋さん。
毎朝、早朝からの真摯な和菓子作りに対し、数多くの人から支持を受けています。
旬の果物を使った大福をはじめ、様々な挑戦を続け、
いつ訪れても、新しい空気を感じるお店です。
(埼玉工業大学教員の本吉裕之が執筆させていただきます)
純度100%のため、賞味期限1日の大福
濱岡屋さんは1890年(明治23年)に
寄居町の荒川の渡し船があった宿場町「赤浜」地区に誕生した和菓子屋さん。
「赤浜の「浜」と、店主の苗字である「岡部」の「岡」から「濱岡屋」と名付けられ、
その後深谷に移転。
2020年、区画整理に伴い、今の地に新しくオープンいたしました。
岡部の地名の由来となった岡部六弥太忠澄の子孫でもあるそうです。
餡作りは毎朝、6時間〜7時間かけて丁寧に作られています。
濱岡屋さんの明治大福の賞味期限は1日。
大切に冷蔵庫に入れて、数日経てから食べようとすると、固くなってしまっていた・・という経験はないでしょうか。
実は私、今まで濱岡屋さんの大福を頂く機会が何度かあったのですが、残念ながら毎回、固くなってしまっておりました。
固くなる理由、それは保存料を使わず、純度100%の餅米を使っているから。
朝生(あさなま)と言われる「その日のうちに召し上がっていただきたい和菓子、
その代表が塩豆明治大福です。
ということは、オープンと同時に購入すると、出来立ての大福がいただけるということですね!
実は、取材前に作りたての大福を店頭で頂きました。なんという柔らかさ・・・。これが本物のまじりっけなしの大福なのかと感激しました。
小豆の甘さと塩豆の加減。新潟県産のもち米と北海道十勝産の小豆。そして沖縄のぬちまーす(塩)を使った塩豆。
私も沖縄にある、ぬちまーす工場に何度か行ったことがあるのですが、
あのミネラルたっぷりの塩は、ほのかな甘みを感じ、元気になる力を秘めた不思議な塩でした。まさかこちらでも使われているとは。
出来立てを頂くと、誰もがこの大福のファンになるはずです。
最初に私から、もう一度強調させていただきます。「濱岡屋さんの大福は、賞味期限1日」です!
「ほほえみ苺大福」を頂く
こちらのいちごは深谷市内の木口農園から。五代目の純さんの中学の同級生が営んでいる農園だそうです。
木口農園さんは深谷で約100年農業を続けており、昔ながらの土耕栽培で苺を栽培されています。
極力、農薬や化学肥料を使用せず、苺の平均糖度10度と比べ糖度13~15度と甘い苺が評判です。
口当たりの柔らかいお餅の次に、イチゴから溢れ出る果実。あんこの甘味と苺の甘みが口の中で溶け合い、
噛み締めるほどにみずみずしさを楽しめます。
女将さんにインタビュー
女将さんの岡部美雪さんにお話をお聞きします。
「毎朝、5時には工場に入っていますが、その日によって違っていて、今日は4時から。
お彼岸の時期などは3時から。きなこを炒ったり、ごまを擦ったり。手間がかかる作業が多く、体力勝負なんですよ。
ここに嫁いでから、皆勤賞だったんですよ。ついこの間、熱出しちゃったんですけどね(笑)」
とてもチャーミングで笑顔が素敵な女将さん。白壁の明るい店内にはいつもお客様との会話を大切にされている温かい空気があります。
いちご大福が誕生したのは1985年(昭和60年)と言われています。
今でこそ、当たり前のように「和菓子」の中の1つのジャンルとして、果物が入ったものが確立されておりますが、
全国的に浸透した80年代後半。私も記憶がありますが、斬新で「え?大福に苺が!」と驚いたことを覚えています。
伝統を打ち破るかのような斬新な発想に対し、実際の職人さん達の反応はどうだったのでしょうか。
「ちょうど私がこちらに嫁いだ頃ですね。
ブームになりはじめていたとは言え、まだ和菓子に果物を入れることにまだ理解されていなかったこともあり、
邪道では?の声もありました。でもやってみよう!という思いから、私がいちご農園を回って仕入れ先を開拓していたことも良い思い出ですね。
そして、色々な人に食べて頂いて、あんことの相性やバランスが難しいんです。
特に、素材を殺さず、引き立てるのが難しい。小豆の種類を変えたり、大変だったけど良い思い出ですね。
苺大福のようなフルーツ大福によって、和菓子というとどうしてもお年を召したお客様の方が多いイメージがあるかと思いますが、
若い人が入りやすくなったと思いますね。萌え断という言葉もありますしね。」
さりげない気遣い
奥のカフェスペースで、「苺さくらアイス最中」を頂きました。
すると、抹茶と共に運ばれてきたのですが、おしぼりに手書きのメッセージが。
これはスタッフのアイデアで書かれたものだそうで、それぞれ書かれている言葉は違います。
お菓子と共に大変癒され、スタッフの方々の心遣いが素晴らしいです。
バニラアイスと餡を絡めて甘いいちごを楽しみつつ、会話に夢中になり、溶けてしまったバニラアイスと餡を、
お皿のようになっているもなかの皮が受け止め、それを口に運ぶと、すべての味が一体化し・・新しい美味しさがそこにありました。
こちらの写真は、移転前まで使われていた煉瓦作りの窯。
深谷にある日本煉瓦製造のレンガは、東京駅にも使われていることで有名です。
五代目の純さんにお聞きします
いつから家業を継ごうと?
「はっきりとは覚えていないのですが、小学6年生の卒業文集に「家の和菓子屋を継ぐ」と書いていたんですよね。
まずお菓子の学校に通い、その後、千葉の我孫子、東京は阿佐ヶ谷で修行をしてきました。
朝は早いですが、桜餅や明治大福の餡は炊き立て、お餅もつきたてをお出しています。
保存料などを使っていない分だけ、どうしても1日で固くなってしまいますが、
焼いたり揚げたりしても美味しいですよ。
「餡」が主役になるお菓子もあれば、引き立て役になっていくお菓子もあります。
桜の時期限定で、いちご桜餅をご提供したり、
その他で果物を使う大福は、
シャインマスカットや甘夏みかん、フルーツトマトなどをその旬に合わせて作っていますが、
その都度、餡の原料も変えたり試行錯誤しています。」
色とりどりの日本の季節を表現
四季を表現する上生菓子にも力を入れており、ショーケースは見ているだけでも飽きません。細やかな色の表現、繊細な形。
濱岡屋さんの店先には、大きな白い暖簾がかかっています。
風に揺れるその姿が、多くのお客様を招き入れています。いつ来ても明るく、清潔感があふれています。
女将さんにお話を聞くと、
「すぐに日に焼けてしまうので、毎年新しいものに変えているんですよ。大きい暖簾ですのでかなり大変なんですけどね。
私はこの場所がパワースポットだと思って店に立っています。
色々なお客様がお越しになられて、
たとえば「彼女の家にこれから挨拶に行くのですが、女将さんどんなのが良いですかね」と聞いてくれたり、そしてその後、報告に来てくれたり。
人の一生の節目、節目に関わる仕事だと思っています。
そして、日本の季節を通して、いつも違うものを売っていますし、お菓子も進化して変わっていくものもありますし。
まさに、この商いは飽きないですね。
そろそろ暖かくなってきたから、かき氷も始まりますよ。」
「見て綺麗、食べて美味しいが浜岡屋が目指しているところです。
ただ美味しいだけではなく、目で見ても感じてもらえるように。
今は、原料の値上げが凄くて、なかなか手に入りにくいものもあります。
昔、輸入の原料も煮てみたけど、まったく違っていて。特に風味がないのでやめようと。」
純さんからは「こんなイベントを企画したんです。
つきたての大福を、包餡(ほうあん)しているところも見てもらいたいなと。」と新しい挑戦のお話。
朝、出来立てが食べられるイベント。今後、定期的に開催していきたいとのことです。
実施日については、濱岡屋さんのインスタグラムにてご案内。
大福の一つの究極の味わい。皆さんもぜひご参加ください!
女将さんからも
「どんどん和菓子も進化して、どんどん成長していかないといけないんです。
いくら130年続いていても、知らない人は知らないですし。
もっと多くの人に浜岡屋のお菓子を食べてもらいたいので、新しいことを考えると楽しいです。
毎日同じではつまらないですからね」
濱岡屋さんは、どんどん新しいものを生み出しています。たとえば、「恋の最中(さいちゅう)」など。
(バレンタインデー、ホワイトデー期間のみの販売)
商品が増えてきて、置く場所が無くなってきたので、
お店の真ん中に「せいろ」と「ばんじゅう」を積んでつくったそうです。
女将さん「何でもないことを毎日しているだけなんですが
この場所に移転(2020年に移転)した時から、はもっと深谷のためにと
「駅舎最中」や「渋沢栄一」さんにちなんだ商品を作っています。
深谷のためになるように、努力しています。
お祭りの時などは「ねぎ汁粉」などを振る舞っています。
もっと深谷が盛り上がるといいなと」
濱岡屋さんは、人を思い、深谷を思っています。
空が明るくなる前から、今日も小豆を炊いて、誰かの1日を彩るお菓子を作っています。
深谷に濱岡屋さんがあって良かった。深谷の人は、そう思っています。
取材・執筆:埼玉工業大学 人間社会学部情報社会学科 准教授 本吉裕之
INFOMATION
古伝餡 濱岡屋
■住所:埼玉県深谷市西島町2丁目18-14
■営業時間:(店舗)9:00~18:00 (カフェ)10:00~17:00
■定休日:水曜日 第3火曜日
■TEL:048-571-0505
■深谷駅からのアクセス:徒歩で約5分
■ふかや花園プレミアム・アウトレットからのアクセス→車で約17分 Google Mapの経路情報
■ホームページ:https://hamaokaya-fukaya.com/
野菜の楽しさに
何度も訪れたくなるまちへ。
肥沃な土地とお日様のチカラに恵まれ、全国有数の野菜・農業のまちとして知られる、ここ埼玉県深谷市。ベジタブルテーマパーク フカヤは、『関東の台所』とも呼ばれるこのまち全体を「野菜が楽しめるテーマパーク」に見立て、何度でも訪れたくなる観光地となることを目指しています。
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