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暖簾をくぐった先に待っていたのは、旨みが詰まった「煮ぼうとう」とあの頃の空気だった【立花】

<妄想物語「立花」編(ここからの5行はフィクションです)>
新入社員だった頃。歳の離れた上司に連れてこられたのは、駅前にある昔ながらの蕎麦屋。
慣れた上司の注文を真似して同じものを。
翌週、気がつくと一人でこのお店の暖簾をくぐっていた。
あれから20年以上経っただろうか。
目の前で、今年の新人が笑顔でカツ丼を頬張っている。
(今回は、埼玉工業大学教員の本吉裕之が執筆させていただきます)

深谷駅改札を出て東口へ。
駅前から深谷市役所方面に行く道はいくつかあるが、向かって右側の通りである、通称「駅通り」(マクドナルド横の道)を、右手に赤城乳業本社ビルを見つつ、少し進むと道沿いに見えてくる「立花」の看板。
駅通りにはその昔、寿司屋、酒店、八百屋、駄菓子屋などが隙間なく並び、賑わいを見せていたという。区画整理により、深谷駅前エリアから移転する店舗が増え、広い駐車場となっている場所が多く、少し寂しい印象を持たれている人もいるかもしれない。
3年前に初めて深谷に降り立った私は、そう感じていた。 何度もこの道を通っているが、初めてこのお店へ。暖簾をくぐり、笑顔の素敵な女将さんの案内で席に着く。 メニューはそば、うどんでそれぞれ30種類以上。
ごはん、丼ものも20種類以上。 冬季(10月〜5月)限定でラーメン類も提供している。

1日10食限定 煮ぼうとう

今回は、入り口にあった張り紙にあった「限定10食・煮ぼうとう/900円(税込)」を注文。
店内は4人席が8卓あり、 掃除が行き届いている。
テレビのニュースの音が流れ、とにかく落ち着く。
出前は役所などからも多いそうで、 店主と奥様が笑顔でその対応をテキパキとこなしている。

壁にかかっている絵を見ると生蕎麦「立花」の文字が。 創業当時の店構えがこの絵に描かれているそうだ。

昭和345月に先代がこの地に店を構え、2023年で創業65年目になるという。
当初は「生蕎麦屋」として開業。
現在の二代目である店主は、そば・うどんに加え、カツ丼、カツカレーなども提供している。
出前対応に追われていらっしゃる合間に、「煮ぼうとう」が運ばれてきた。


土鍋でしっかり煮込まれ、ぐつぐつと音を立てている。
煮ぼうとうは、渋沢栄一翁も愛した深谷のソウルフード。
市内の給食でも提供されており、各家庭ごとに昔からの日常に溶け込んでいる。
「立花」では一旦メニューから外していたそうであるが、数年前の渋沢栄一大河ドラマに合わせ、数量限定で再登場したそうだ。

まずはスープを。
一口で分かる、ダシの旨みと野菜の甘み。これは美味い。

「ほうとう」ならではの太い麺はしっかりとした歯応えと、噛むと旨みが広がる。
お土産としての「ほうとう」をいただき、家で作ったことはあるが、それとは食感がまるで違うのである。
もちもちしつつも、柔らかすぎず、しっかりとした硬さも。
野菜もたっぷりだが、決して煮崩れはしていない。

人参、南瓜、ねぎ、大根。きのこ類はエノキダケ、椎茸、しめじのそれぞれから味が滲み出ている。その旨みを吸い込んだ油揚げと、大き目にカットした鶏肉が麺と共に煮込まれている。

 煮ぼうとうの魅力は、次から次へと襲ってくる野菜の旨みと、麺のかみごたえに尽きる。
一口ごとに違う具材の食感から、それが決して作り置きされたものではなく、毎日丁寧に仕事されたものであることが分かる。
煮込まれたねぎからの甘みに対して、薬味として別皿に添えられた刻み生ねぎを入れると、味わいがスッと引き締まり、飽きさせない。
ープを最後の一滴まで味わったその昼は、次から次へと注文が押し寄せていたため、
お話を聞くことを諦め、夕方に改めて店を訪ねた。

朝早くから作り上げる「全て手打ちの麺」 

 ほうとうの麺、美味しいですねと店主に伝えると
「毎朝、早起きして麺を打っているからね」とさらりと答える。

え、全部こちらで手打ちなんですか・・・
店の外の看板やメニュー、どこにも自家製麺であることなどは書かれていない。
聞くと、蕎麦、うどんも朝から丁寧に、粉から打っているというではないか。
もちろん煮ぼうとうの麺も、その日の朝に作られた手作り麺。

鴻巣の長島製粉さんから仕入れているそうで、原料が高騰する中、
決してそのご苦労を表に出さずに、丁寧に仕事をされている。
蕎麦粉は石引きで熱が加わっていないので、香りが良く、配分としては二八と三七の間としているとのことだ。


「親父もそうしていたからね。当たり前のことだよ。」と笑う。

なんということだろうか。
自家製麺といった点を目立たせることをすることなく、当たり前のことだからとさらりと言う。

昼に頂いた時の旨みの記憶から、「出汁」について聞くと、
「宗田節と昆布や煮干しを前の夜から漬けておいて、朝の仕込みの時に取り出して使っているね。これも昔からずっと変わってないね。」

宗田節はマルソウダガツオ(めじか)を原料とした節であり、それがこのコクを生み出し、昆布の旨みでまろやかに。
朝早くからの仕込みの話を聞いていると、まだ日が沈む前ではあったが、隣の席ではお客さんが天ぷらを肴にビールを飲んでいる。テレビから流れるニュースの音が心地よい。

決して昭和の雰囲気という安易な言葉では表現できない、いつかの空気がそこにあった。

カツ丼の完成形

数日後、どうしても気になるメニューがあったので再度尋ねることとした。
ネットの口コミで「カツ丼を色々なお店で食べてきたが、ここが一番美味しかった」「究極のカツ丼」とあったのだ。

カツ丼 850円(税込)

肉厚、そしてそばつゆのしっかりとしたつけ汁の旨みを感じる味付け。
グリーンピースが良いアクセントとなり、箸が止まらない。
(グリーンピースが苦手な方は、注文時に一言添えてください。)
豚肉の火の通り具合、玉子のとじ加減が絶妙で、柔らかい箇所と硬い箇所が絶妙なバランスを生みつつ、玉ねぎの甘さがたまらない。
確かにこれはカツ丼の完成形である。

店主が笑顔で「うちのカツ丼、美味しいよね」と笑う。
奥で作られたのは、店主のお母様だろうか。
うちの母親の自慢のカツ丼なんだよね、という意味がそこにあったのかもしれない。

壁には、テイクアウト用の立花のつゆの素(無添加・無着色)と自家製ポン酢の案内が。
つゆの素から、美味しい煮物を作ることができるため、地元の常連さんが家庭にこの味を取り入れているそうだ。
私はポン酢を購入し、妻への土産とした。

冒頭に記載した妄想小説のことを店主に話してみた。
部長が新入社員を昼に連れ出して、この店にやってくるという話が、
なぜか頭の中に浮かんだので。

「わははは、そうなんだよ。まさにその通り(笑)上司に連れてこられた新人さんが、それから一人で通うようになってくれるんだよね。
そういったお客さん多いなーー。よく分かったね(笑)」

深谷ではないが、自分が社会人になりたての頃、父親と同じくらいの歳をした嘱託社員の方に昼食を誘われ、
連れられて行ったお店を思い出していたのだった。
「こんなイメージが思いついたんですけど」という私のなんてことのない話に、楽しそうに笑ってくれる店主。

大きく変わってきた深谷駅前の変遷を見つめてきた「立花」

新しくオープンしたお店に行くのも楽しいことであり、町が発展していくには欠かせないことでもある。
そして老舗と呼ばれる店には、そこにあり続ける理由がある。

行ったことがないお店の暖簾をくぐるというほんの少しの興味・関心、そして勇気。
それがこんなにも日常に彩を与えてくれることになるとは。
そんなお店をどれだけ知っているかで、その街がかけがえのないものになり、
自分にとって、もう一つのふるさとになっていく。

久々に常連になりたいお店と出会った。
また深谷が好きになった。
 
二代目店主 山内 尊之(たかゆき)さん
「夏はゆっくり冷たいお蕎麦を食べにいらしてください。冬は温まるメニューもありますよ」

 

取材・執筆:埼玉工業大学 人間社会学部情報社会学科 准教授 本吉裕之

INFOMATION

立花

■営業時間:11:0019:30
■定休日:土曜日

■住所:埼玉県深谷市西島町2-17-8
■TEL048-501-7318
■駐車場:近隣のコインパーキング、もしくは深谷商店街駐車場をご利用ください。→深谷商店街連合会 共同無料駐車場の場所
■ふかや花園プレミアム・アウトレットからのアクセス→Google Mapの経路情報

※営業時間や定休日、金額などの掲載情報は変更になる場合がございます。あらかじめ各店舗・施設に確認の上、おでかけください。

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